POTSと併存する疾患や鑑別する疾患には以下のようなものがあります。
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 (Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome, ME/CFS)
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は原因不明の強度の疲労感・倦怠感が6ヶ月以上続く疾患です。身体的、精神的、疲労後の疲労/睡眠障害/痛み/神経学的または認知的徴候(混乱、集中力、記憶障害など)/自律神経、神経内分泌または免疫系の障害といった基準と照らし合わせて診断します。
POTSもME/CFSも比較的女性に多いという特徴があります。
POTS患者の17~23%がME/CFSに該当しているという報告があります。
POTS患者の中で、ME/CFSに該当している患者とそうでない患者を分けて比較してみると、臥位や起立後10分での脈拍数や血圧、ノルアドレナリン、血漿量には差がないが、ME/CFSに該当している患者ではレニン活性やアルドステロンが高めの傾向で、また交感神経の緊張も高いという報告があります。
エーラスダンロス症候群 (Ehlers-Danlos Syndrome, EDS)
エーラスダンロス症候群(EDS)は皮膚、関節の過伸展性、組織のもろさを特徴とする疾患です。
POTS患者の18%がEDSに該当しているという報告があります。
特に関節可動亢進型EDSで、POTS患者にも見られる自律神経機能障害(動悸、立ちくらみ、胸痛、失神など)が起きること多く、自律神経機能検査をすると交感神経系の心臓血管系の制御が障害されているという報告があります。
またPOTS患者と同じように、起立時以外に運動、食事、高温などで症状があらわれるという報告もあります。
POTSと関節可動亢進型EDSの関係はよくわかっていませんが、EDSの結合組織の異常により下肢への血液の溜まりやすく起立不耐となる、あるいは自律神経障害になるような末梢神経障害が起きているのではないかと言われています。
血管迷走神経失神 (Vasovagal Syncope, VVS)
体位性頻脈症候群と血管迷走神経失神は臨床症状が重複しており、どちらにもあてはまるように見える場合があります。この時はヘッドアップチルトチルト試験により状態を確認します。血管迷走神経失神では血圧が数分間維持できたあと急激に血圧低下します。POTSでは血圧はほぼ維持され脈拍数が上がっていき、失神しそうではあるが実際に失神することはまれで、POTS患者さんの約30%のみ失神の経験があります。
不適切洞頻脈 (Inappropriate Sinus Tachycardia, IST)
体位性頻脈症候群と不適切洞頻脈も臨床症状が重複しています。不適切洞頻脈も若い女性によく起こり、失神しそうになったり脈拍数が上がります。しかし不適切洞頻脈では頻脈が体位と関係なく現れ、臥位でも1分間に100以上となります。また体位性頻脈症候群の立位時の脈拍数の上昇は、不適切洞頻脈による頻脈よりも酷いです。
・Postural Tachycardia Syndrome: Beyond Orthostatic Intolerance. Garland, E.M., Celedonio, J.E. & Raj, S.R. Curr Neurol Neurosci Rep (2015) 15: 60. doi:10.1007/s11910-015-0583-8. Springer社から翻訳許可を得て掲載しています
〇脳脊髄液減少症
POTSと脳脊髄液減少症は起立性頭痛などの点でとてもよく似ています。脳脊髄液減少症の検査(MRIやRIなど)で明らかな髄液漏れがない場合はPOTSの診断基準にあてはまるどうか確認してください。脳脊髄液減少症とPOTSの関連や合併に関する報告もあります。
・脳脊髄液減少症と体位性頻脈症候群
・POTS or a spinal CSF leak?
・Diagnostic challenges in spontaneous intracranial hypotension
・Positional headache not always a spinal CSF leak
POTSも脳脊髄液減少症も病態の解明に向けて今後の研究が期待されます。
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