以下は Pediatric Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome: Where We Stand external-link-symbol を日本語訳したものです


| 診断基準 | 図1.POTS(体位性頻脈症候群)に関連する症状 | 表1.POTS(体位性頻脈症候群)の診断基準 |

小児の体位性頻脈症候群(POTS):研究の現状

医学博士Jeffrey R. Boris/医学博士Jeffrey P. Moak

体位性頻脈症候群(Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome: POTS)は、1992年に初めて報告されたが、いまだに謎も多く、深刻で多様な衰弱性の疾患である。この症候群の病態生理はいまだ解明されておらず、バイオマーカーもまだ存在していない。近年、研究への関心は高まっているものの、小児や思春期のPOTSを扱った臨床・調査研究は、成人と比較すると少ないのが現状である。

しかしPOTSの症例は、患者が成人して受診しているケースも含めて、思春期に始まっていることが多い。本稿では、診断基準、危険因子と転帰、神経ホルモンおよび血行動態の異常、臨床評価、および治療に関する考察を含め、特に小児患者におけるPOTSの研究報告を要約する。本稿の目的は、小児および思春期の医療従事者の間でPOTSに対する認識と認知を高めることであり、報告されているホメオスタシスの異常について理解を促し、症状のある患者を認識し適切に管理することで、患者を日常生活に復帰できるようにすることである。


体位性頻脈症候群(POTS)は、小児および成人の複数の身体系に影響を及ぼす自律神経障害であり、重大な障害を引き起こす。1992年に初めて報告されて以来、POTSの認知度は高まり、1990年代後半から論文数も着実に増加している。POTSの罹患率は比較的高い上、研究費が少ないことから、米国国立衛生研究所(NIH)の主催でPOTSの国際的な専門家が集まり、研究の現状と優先順位について議論する1日開催のシンポジウムが開かれた。

本稿執筆者の2名はこのシンポジウムの小児科代表として、POTSの小児の側面について広範な医学文献レビューを準備していたが、シンポジウムは文献の包括的な議論の場として企画されたものではなかったため、小児と成人のPOTSの比較や対比に関しては別で行うほうが良いように思われた。本稿では、小児および思春期のPOTSの診断および臨床的側面に関する様々な特徴を検討し、これらのグループにおける具体的な研究成果を要約する。


診断基準

ポイント

  • 患者は複数の身体系にわたる多数の症状を持つことがある。
  • 米国ではPOTS患者は主に白人女性に多い。
  • 小児のPOTSの診断基準は、3か月以上の慢性的な起立不耐症の症状があること、臥位の後、立位になった状態からの10分間で、起立性低血圧を伴わない状態で、40拍/分以上の心拍数の増加が持続すること、他の病因の可能性がないこと、である。心拍数の基準については議論の余地がある。

図1.POTS(体位性頻脈症候群)に関連する症状

表1.POTS(体位性頻脈症候群)の診断基準


小児から成人の年齢層にまたがる臨床疾患を考察するとき、我々はどうしてもその類似性を考え、包括的な病態生理を考慮し、グローバルな治療アプローチを構築し、予後を予測したくなるものである。実際、POTSの症状はあらゆる年齢層において類似しており、慢性起立不耐症や、起立性低血圧を伴わない頻脈や、複数の身体系にわたる複数の関連障害などの症状がみられる(図1)(表1
ある研究では、66%の患者が少なくとも10以上の症状を、50%の患者が14以上の症状を、30%の患者が26以上の症状を報告した。また、女性(3.45:1)、白人(94.1%)に著しい優位がみられ、感染症や脳震盪の既往との関連も指摘されている。しかしよく確認すると、実は重要な違いがあることがわかる。
12歳から19歳の小児におけるPOTSの診断は、チルトテーブル試験において1分間に40拍以上の心拍数の増加であると、ある程度定義されているが、これが10分間起立試験においても有効かは不明である。また12歳未満に対する診断基準は定義されていない。

心拍数の閾値の基準が疑問に思えるデータがある。2020年のBorisによる研究では、10分間起立試験で心拍数の増加が30~39拍/分の小児の症状の出現頻度は、心拍数の増加が40拍/分以上の患者と統計的にも有意差はないことが示された(表2)。小児の関節過可動性症候群について調べた別の研究では、10分間起立試験で心拍数が40拍/分以上増加した小児、30拍/分以上増加した小児、または同等の成人研究において、関節過可動性(過可動性エーラス・ダンロス症候群および過可動性スペクトラム障害)の有病率に有意差はないことが示された。
無症状の思春期に対するチルト試験において、心拍数増加の95パーセンタイルが43拍/分であることを最初に示し、後に小児POTSの診断基準を40拍/分と推奨することにつながった論文では、チルト試験が用いられたけれども、
Plashによる成人での研究では、チルト試験による心拍数の平均増加は、10分間起立試験よりも7拍/分高いことが示唆された。さらにMedowは、小児の血管迷走神経性失神の患者において、POTSではないが、半数近くの患者で平均心拍数が40拍/分増加し、対照群では20拍/分の増加にとどまったことも明らかにした。

現時点では、POTSに特有のバイオマーカーがないため、心拍数の増加を診断の主要な識別因子として利用し続けることがコンセンサスである。しかし患者たちの症状の多さや多様性に注目することが、結果的により重要な識別因子となる可能性がある。バイオマーカーが発見されると、疾患の有無をより明確に判断できるようになるだろう。


図1.POTS(体位性頻脈症候群)に関連する症状

図1.POTS(体位性頻脈症候群)に関連する症状

表1.POTS(体位性頻脈症候群)の診断基準

表1.POTS(体位性頻脈症候群)の診断基準

小児の体位性頻脈症候群(POTS):研究の現状(2)につづく


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