新型コロナウイルスの罹患後症状(以下、便宜的にコロナ後遺症またはLong COVIDと記します)について、2021~2022年の確認で報告されている、特に自律神経に関わる報告を示します。
1. ネイチャー誌から200以上の論文を分析したレビューが出ています。1)
・コロナ後遺症は新型コロナウイルス感染者の少なくとも10%、世界で6500万人の罹患が推定されています。
・非入院例の10~30%、入院例の50~70%、予防接種済例の10~12%の罹患が推定され、年齢や新型コロナ急性期の重症度によらず発症し、最多は年齢36~50歳、軽症の非入院例です。
・症状は200以上確認されており、複数の臓器に影響しています。心血管疾患、血栓性疾患、脳血管疾患、Ⅱ型糖尿病に加え、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、自律神経障害とくに体位性頻脈症候群(POTS)が報告されています。症状が長期化する可能性があります。
・コロナ後遺症で自律神経障害とME/CFSを発症するリスクは、あきらかに上昇しています(現在これらに対する特効薬はありません)
・仕事に復帰できない例が多く、新たな障害者が増えて労働力不足の一因になっています。
・メカニズムとして、1、免疫機能の調節不全、2、腸内細菌叢の異常、3、自己免疫や免疫プライミング状態、4、血液凝固や血管内皮異常、5、脳幹や迷走神経での神経シグナル伝達の機能不全、といった仮説が立てられ、研究がすすめられています。
2. 自律神経障害(Dysautonomia)に関する大規模オンライン調査2)
スタンフォード大学、ストーニーブルック大学、啓発団体のディスオートノミア インターナショナルの研究チームは、2020年10月~2021年8月にLong COVID患者を募集し、18歳~64歳の2413名に、自律神経障害を評価するオンライン調査(COMPASS-31など)を実施したところ、
Long COVID患者の66%に、中等度から重度の自律神経障害が示唆されました。またこれは新型コロナ急性期の重症度(入院有無)とは関連していなかったと報告しています。
(COMPASS-31とは、起立不耐性、血管運動、分泌運動、胃腸、膀胱、および瞳孔運動を確認する、自律神経機能の評価ツールです)
3. 脳血流低下や小径線維ニューロパチー3)
ハーバードの研究チームが、慢性的な疲労感、ブレインフォグ、起立不耐症があらわれているコロナ後遺症(新型コロナの感染時に軽症で、感染から0.8±0.33年経過の9名)について、
自律神経障害、疼痛、ブレインフォグ、疲労、呼吸困難があり、経頭蓋ドップラーを使いながらチルト試験を行ったところ、脳血流の低下が平均約20%みられたと報告しています。これはLong COVIDではないPOTS群にもみられましたが、健常者群にはありません。
また皮膚生検などで小径線維ニューロパチー(SFN)がみられたり、炎症マーカーとして抗TS-HDS抗体や、その他のマーカーの上昇も報告されています。
4. ブレインフォグ(Brain fog)とミクログリア活性化4)
スタンフォード大学とイエール大学の研究チームが、新型コロナウイルスを呼吸器系に軽度感染したマウスモデルを確認したところ、脳脊髄液において、認知機能障害をもたらすケモカインCCL11(*1)を含むサイトカインやケモカインの上昇と、皮質下白質のミクログリア(*2)の反応上昇があり、海馬のミクログリア活性化と神経新生阻害、オリゴデンドロサイトの減少、有髄軸索の密度低下がみられたと報告しています。
またブレインフォグがあらわれているコロナ後遺症のあるヒトでも、血清のCCL11の上昇がみられています。病態解明や診断・治療につながる可能性があります。
(*1:ケモカインCCL11は、海馬のミクログリアを活性化したり、神経新生を阻害すると言われています。*2:ミクログリアの過剰な活性化が、神経炎症をひきおこすことが近年知られるようになり、この領域の研究がすすめられています)
参考:ミクログリア活性化に対する治療は、ME/CFSで示されています。詳しくはこちら(Healthrisingのサイトにリンクします。英語)
5. 自己抗体や変時応答5)
ドイツの研究チームが、疲労倦怠感、体位性頻脈症候群(POTS)、頻脈、徐脈などが現れているコロナ後遺症31名について、交感神経系のβ2アドレナリン受容体、副交感神経系のM2ムスカリン性アセチルコリン受容体、レニンーアンジオテンシン系(RA系)のAT1アンジオテンシン受容体やMas受容体といった、G蛋白質共役受容体(GPCR)に対する自己抗体が検出されたと報告しています。
これらが自律神経が関与する変時応答(身体活動に対する心拍数の調節)にかかわっていることも確認されています。
GPCRに対する自己抗体は、近年、神経系や心血管系などで研究され、POTSやME/CFSでも研究がすすめられてきました。
この研究チームは自己抗体の検査に加え、アプタマーを用いた治療薬(BC007)の開発もすすめています。
6. マスト細胞活性化症候群(Mast cell activation syndrome, MCAS)6)
米国の研究チームが、Long COVIDによるMCASの増加を報告しています。これはケミカルメディエーターとして、血漿中のプロスタグランジンD2、ヒスタミン、ヘパリン/血清中のトリプターゼ、クロモグラニンA/24時間尿中のプロスタグランジン11-β-PGF2α、N-メチルヒスタミン、ロイコトリエンE4を測定し、また症状の数、重症度、影響を受けている箇所の数、疲労評価の確認を行ったところ、
136名のLong COVID群が、コントロール群やコロナ罹患前とは異なり、MCAS群と同じような状況になっていることが示されています。
確認した症状には、疲労感やブレインフォグに加え、頻脈や息切れ、痛みに関する症状などが含まれています。
参考:MCASの治療には抗ヒスタミン薬のファモチジンなどのお薬や、食事療法などが知られています。詳しくはこちら(Healthlineのページにリンクします。英語)
7. 上咽頭擦過療法(EAT)と経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)
国内では上咽頭擦過療法(EAT)により、コロナ後遺症における上咽頭の炎症、疲労、頭痛、注意障害を軽減したことが報告されています。7)EATは塩化亜鉛の抗炎症作用、瀉血効果、迷走神経への刺激をもたらすと言われています。
経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)は、耳に機器をつけて迷走神経を電気刺激する治療方法です(いまは国内未承認)海外で他疾患の研究を通じ、迷走神経への刺激は抗炎症作用があると言われており、POTSに対してもLong COVIDに対しても研究がすすめられています。8,9)
POTSや起立不耐症の症状は、動悸、息切れ、呼吸苦、胸痛、強烈な全身倦怠感などがあり、患者さんによってあらわれ方が異なります。診断は起立試験やヘッドアップチルト試験で行います。重症でも、心電図、ホルター心電図、心エコーでは異常が無く、一般的な血液検査も異常が無いことが多いため、診察で見過ごされてやすく、注意が必要です。
コロナ後遺症で症状に心当たりがある方は、疾患説明や医療機関のお知らせをご確認ください。
Topics#01 コロナ後遺症とPOTS・起立不耐症(2021年9月)はこちら
体位性頻脈頻脈症候群(POTS)
自律神経障害(Dysautonomia)
医療機関のお知らせ(起立不耐症研究会にリンクします)
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