以下は Pediatric Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome: Where We Stand を日本語訳したものです。原文の補足説明は一部省略しています。
小児の体位性頻脈症候群(POTS):研究の現状(1)にもどる
| 表2.小児のPOTS患者に特化した研究 | リスクファクターと転帰 | 神経ホルモンの異常と血行動態の異常 | 臨床的評価 | 治療 | 臨床管理 | 今後の展開 |
表2.小児のPOTS患者に特化した研究
小児のPOTS患者における知見 | 文献 |
---|---|
脳震盪後症候群は小児のPOTSと関連しており、POTSに関連した頻脈は、高い割合で脳震盪後症状の改善にともなって消失した。 | 11 |
10分間起立試験における症状発生頻度は、心拍数の増加が30~39拍/分でも40拍/分以上でも有意差はない。 | 13 |
関節過可動性の有症率は、心拍数の増加が30~39拍/分でも40拍/分以上でも有意差はない。 | 14 |
POTSは成長スパートや初潮の後に発症する。 | 19 |
外因性のテストステロンの投与により、症状が軽減することがある。 | 20 |
思春期にPOTSを発症した患者のうち、症状が消失した患者は19%にのぼる。 | 25 *1 |
小児患者の最大48%が1年後のフォローアップで無症状となり、85%以上が6年後のフォローアップで無症状となった。 | 26 *2 |
POTSの小児患者は、学業や運動、またはその両方において優秀である。 | 27 |
血流依存性の血管拡張が、対照群より大きい。 | 31 |
一酸化窒素濃度および一酸化窒素合成酵素活性が、対照群と比較して上昇している。 | 31 |
硫化水素の濃度が、対照群より高い。 | 32 |
対照群と比較して、安静時の静脈圧は上昇し、動脈抵抗は減少している。 | 33 |
健常対照群と比較して、起立時の血管抵抗と心拍出量が減少している。 | 34 |
C型ナトリウム利尿ペプチド濃度が、対照群より高い。 | 34 35 |
レジスチン濃度は、対照群と比較して上昇している。 | 37 |
臥位のレジスチン濃度は、臥位から立位への心拍数上昇の程度と、逆相関している。 | 37 |
コペプチン濃度は、対照群と比較して上昇している。 | 37 |
高血圧患者における抗利尿ホルモン値は、高血圧でない患者よりも高い。 | 38 |
24時間尿中ナトリウム排泄量は、対照群より少ない。 | 39 |
末梢血管の収縮にも関わらず、起立姿勢での内臓静脈貯留を誘発する。 | 40 |
患者における起立直後の起立性低血圧は、対照群と比較して、より頻繁かつ重篤である。 | 41 |
脳血流や心肺制御の変化について、対照群と比較して、患者の方が高い有病率を示している。 | 41 |
患者の補正QTのばらつきは、対照群より大きい。 | 42 |
患者の心筋仕事量は、対照群と比較して、覚醒の前後で大きくなる。 | 43 |
小児のPOTSでは、心拍数の日内変動が起きている。 | 44 |
頭痛や立ちくらみで受診した患者において、POTSの心拍数基準を満たしていた患者は、満たしていない患者よりも、乗り物酔いや、頭痛の引き金となる立ちくらみ、起立性頭痛などを、新たに発症しやすかった。 | 45 |
消化器症状のある患者では、胃排出検査や内視鏡検査と比較して、前十二指腸マノメトリーにおいて、最も頻繁に異常を示す。 | 46 |
消化器症状のある患者では、胃排出検査、大腸通過時間、適応性弛緩などの検査と比較して、肛門直腸マノメトリーにおいて、もっとも頻繁に異常を示す。 | 47 |
消化器症状のあるPOTS患者は、起立時の胃電図で胃幽門および胃底において遅い周波数または早い周波数を示すが、POTSではない消化器症状のある患者では胃部の電気活動は低下している。 | 48 |
小児のPOTS患者のうち、14.2%にはPOTSの罹患家族がおり、31.3%には起立不耐症の、20.2%には関節過可動性の、45.1%には自己免疫疾患の罹患家族がいた。 | 51 |
小児のPOTSに対する対症療法は、症状により39%から70%の有効性がある。 | 53 54 |
イバブラジンは、小児患者の3分の2で症状を改善した。 | 55 56 |
ミドドリンとメトプロロールは、未治療の患者に対して症状スコアを低下させた。 | 57 |
C型ナトリウム利尿ペプチドとコペプチン濃度の上昇は、メトプロロール療法による有効性を予測するものであった。 | 35 59 |
βブロッカーと、比較的低い程度ではあるがミドドリンにより、POTSの臨床症状が軽減された。 | 60 |
ミドドリンは神経障害性のPOTSの治療に有効であったが、高アドレナリン性POTSには無効であった。 | 61 |
生理食塩水の非経口投与はQOLを改善することが報告されたが、永続的な利用には血栓症や感染症のリスクがある。 | 62 |
(引用 Boris JR, Bernadzikowski T. Demographics of a large paediatric postural orthostatic tachycardia syndrome program. Cardiol Young. 2018;28(5):668–674)
*1に対する論文中の補足説明:思春期にPOTSを発症した患者を対象とした2016年の研究では、成人期を迎えるまでに最大19%の患者で、症状が自然に消失することが示された。しかしこれらの患者では「回復した」と回答した患者の最大33%にPOTSの症状が残っていることが指摘されている。
*2に対する論文中の補足説明:2019年の中国での長期転帰に関する同様の研究では、小児のPOTS患者の48%が1年後のフォローアップで症状がなく、6年後には85%以上が無症状であったが、その評価に用いられた症状は他の研究よりも少なかった。
リスクファクターと転帰
ポイント
- POTSは、感染症、脳震盪、成長スパート、初潮の後に始まることがある。
- POTSが自然に治る患者は一部で、ほとんどの患者は少なくとも何らかの影響を受けたままである。
- 多くの患者は発病前、学業やスポーツにおいて優秀である。
- 親からのケアがあること、患者自身が責任を持つことが、対症療法のアウトカムにとって重要である。
・POTS患者の半数が診断を受ける思春期は、体内で様々な変化が起こる重要な時期であり、成人とは対照的である。思春期にはホルモンの変化により、身体の成長、脳の成熟、心理的成熟、生殖腺の成長・成熟が起こるが、これらがPOTSの発症、病態生理、転帰にどのように影響するかは不明である。
・小児の患者に特有な要素は、親の関わりである。特に受診した病院で症状を無視されたり、誤った解釈をされた場合、親は強力なサポーターとなり、子どもたちをもっと知識豊富で親身になってくれる他の病院に連れて行くことができる。子供のケアを最適化するために、他の親とネットワークを作ったり、日々のケアマネージメントの中で子供に注意を促したり、後押ししたりもする。しかし親は子どもの回復を妨げてしまう場合もある。(子どもが学校やスポーツにすぐに復帰することを期待したり、子どもの成熟や失敗を受けいれにくかったりする。親自身が子どもの治療に影響するような未治療の医学的・心理的問題を抱えていたり、介護者の立場に依存せざるをえない場合がある。子どもの心理的な問題の併存に気づかない場合もある)
(参考:「表2(19-27)」)
神経ホルモンの異常と血行動態の異常
ポイント
- POTS患者は、特に起立姿勢で血管の異常な反応を示す。
- 血管拡張に関連する化合物の濃度が異常に高くなっている。
- 患者に著しい内臓静脈貯留や下肢静脈貯留が起きている。
(参考:「表2(31-40)」「POTSの原因や病態」)
臨床的評価
ポイント
- 患者は、起立姿勢での脳血流の異常がある。
- 起立心拍反応の日内変動が大きく、朝の反応は悪化する。
- 胃腸症状のある患者が、最も高い頻度で異常を示す検査は、前十二指腸マノメトリーと肛門マノメトリーである。
- POTS患者の家族では、起立不耐症、関節過可動性、自己免疫疾患の有病率が高い。
(参考:「表2(41-51)」)
治療
ポイント
- POTSの症状を軽減するために使用できる薬物治療は数多く存在する。
- 生理食塩水の非経口摂取は、一時的な対策として症状を軽減するために使用することはできるが、通常、長期的な治療としては推奨されない。
臨床管理
ポイント
- 関連する症状や併存する疾患を評価できるような、患者の完全な病歴を知ることが、包括的な治療アプローチを確保するために重要である。
- 併存疾患に伴う臨床所見を除き、身体検査所見が全く正常である場合もある。
- 臨床的対応は非薬理学的介入から始め、適応があれば薬物療法を追加する。
(参考:「POTSの併存・鑑別疾患」)
今後の展開
ポイント
- POTSの病態生理や管理に関する研究への関心が高まっている。
- 偏見を取り除くことや、啓発活動をすることを含めて、小児および思春期におけるPOTSの認知度を高めることは、患者が治療にアクセスできるようにするために重要である。
小児の体位性頻脈症候群(POTS):研究の現状(1)にもどる
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