【実施模様3】POTS・起立不耐症セミナー2025 ~重症例・難治例への様々なアプローチ

【実施模様3】とらえにくい症状に対する診療・支援の課題と取り組み(野村篤史先生)

牛久愛和総合病院 リウマチ膠原病内科の野村篤史先生に「とらえにくい症状に対する診療・支援の課題と取り組み」を講義頂きました。

表紙のスライドと野村篤史先生

先生がとらえにくい症状に取り組むようになったきっかけとして過去の症例経験を教えて頂きました。

パルボウイルス感染後にしびれや脱力が続き、ステロイドや抗リウマチ薬等の治療を試みても改善が乏しく、倦怠感、頭痛、脱力で杖歩行になっても、検査で異常が出なかったそうです。
「主訴が多い人は心の問題」と捉えられやすいそうですが、文献を調べると、パルボウイルス感染後に39症例中5例が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の基準を満たしたという報告があり、この分野に興味と課題を感じたとのことでした。

その後、順天堂大学の三宅幸子先生が神経、内分泌、免疫の対話に関する研究をされていることを知り、野村先生は大学院で中枢神経の慢性炎症メカニズムをテーマとした研究に取り組んだそうです。


次に心身相関をご紹介頂きました。「古典的心身症」にはストレッサーによる関与の大きい7疾患として、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、本態性高血圧、気管支喘息、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、甲状腺中毒症が挙げられています。医学の発展とともに、薬物治療が中心になりました。

一方、現在いわゆる心身症として扱われている「FSS(機能的心身症)」は、訴える症状などが確認できる組織障害の程度に比して大きい疾患群で、メカニズムの解明がまだ不十分なため、心身症的アプローチの役割が相対的に大きいのではないかとのことでした。


「医療の目標の変遷」もご紹介頂きました。昔は「命を救うこと」、次に「臓器の機能障害による生命予後に関わる問題」が課題でしたが、最近は「生活の質(QOL)を大きく落とす問題」にも目が向けられるようになってきています。

また「解像度」の問題として、現在の検査では細かく調べきれていない場合、由来が異なるけれども同じような特徴を持つ病気が「症候群」として同じように扱われてしまうため、必要な解像度の検査が期待されます。

加えて、遺伝子は変わらないけれども、環境要因などの後天的な要因で遺伝子の働き方が変わること(エピジェネティックな変化)が生体に影響を与え、病気の原因になっていることもわかってきました。


内科学の父と呼ばれるWilliam Osler医師は1900年頃、関節炎は診ることが困難な病気だったため、「関節炎の患者が診察室に入ってきたら、後ろのドアから出て行きたくなる」と述べたと言われています。しかしいまでは関節リウマチは寛解達成可能な病気です。
現在、治療が難しい病気も、将来は診断や治療ができるようになるのではないかとお話頂きました。


ただ、患者さんは“現在“困っているため、野村先生はNPO法人SERLA external-link-symbol を立ち上げ、医師向けの啓発ウエビナー、社会保障支援、就労マッチングプロジェクト企画などをすすめていらっしゃいます。

*質疑では、関節リウマチはここ20年で一気に診療がよくなったこと、診療がすすむにはバイオマーカーが見つかることや治療法の存在、医師の教育の機会には診療ガイドラインや製薬企業も含めた対応が、要素として大きいことを教えて頂きました。


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