【実施模様2】自律神経疾患における漢方治療(山本巌漢方)(上松章子先生)
久留米大学医療センター 先進漢方治療センターの上松章子先生に「自律神経疾患における漢方治療(山本巌漢方)」を講義頂きました。
山本巌漢方とは、西洋医学的手法を取り入れた漢方で、病態を科学的に捉え、適合した薬物を組み合わせ、真に病気を治せる医学でなければならない、西洋医学と東洋医学の複眼的視点を持つことが必要であると説いています。
漢方では西洋医学的に認識できない「虚証(きょしょう)」「寒証(かんしょう)」「瘀血証(おけつしょう)」という病気の捉え方があることを教えて頂きました。
漢方では生体維持の3要素を「気・血・水」ととらえるとともに、下記の病態が認識されています。
気(き):機能と考える
- 気虚:機能の低下(消化吸収機能、呼吸機能の低下)
- 気滞:機能の異常(消化吸収、呼吸の失調。自律神経の失調)
血(けつ):滋養物(栄養分)、肉体
- 血虚(けっきょ):滋養物の不足
- 瘀血:血が滞っているのであろうという臨床仮説
水(すい):血液以外の水分
- 水滞(すいたい):過剰や偏在(めまい・むくみ・気象病など)
■ 消化器の症状に対する漢方は、上記タイプごとに処方が異なることを教えて頂きました。
● 機能性ディスペプシア(FD)
- 気虚型:胃の消化吸収力の低下、弛緩性の蠕動運動の低下、食欲がない⇒例:「六君子湯(りっくんしとう)」
- 気滞型:胃の筋肉の緊張・逆蠕動⇒例:「茯苓飲(ぶくりょういん)」、「茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういん ごうはんげ こうぼくとう)」
● 便秘
- 弛緩性(気虚):便が直腸に届くまでに時間がかかる⇒例:「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」+少量の瀉下剤(麻子仁丸(ましにんがん)、潤腸湯(じゅんちょうとう))
- 痙攣性(気滞):腸管の過度の痙攣・緊張、または蠕動運動の亢進、過敏性腸症候群に多い⇒例:「桂枝加芍薬湯(けいし か しゃくやくとう)」
● 消化器症状の病因ごとの例
- 弛緩性:「六君子湯」
- 過緊張・痙攣性:「茯苓飲」(合半夏厚朴湯)「四逆散(しぎゃくさん)」「大柴胡湯(だいさいことう)」
- 冷えによる過緊張・痙攣性:「安中散(あんちゅうさん)」「人参湯(にんじんとう)」「呉茱萸湯(ごしゆとう)」
■ 山本巌先生の臨床経験から見出された「フクロウ型体質」とは、夜に元気、朝に極端に不調、身体の多彩な訴えがあり、「苓桂朮甘湯(りょうけい じゅつかんとう)」が有効(多めに服用。利水し、脳の血流を良くし、心悸亢進を鎮静)先生の病院では「フクロウ外来」 を設置し、他の薬も併用しながら診療が行われています。
■ 体位性頻脈症候群(POTS)の症例は、40代男性の10年前からの症状に対し、西洋医学の治療が奏功しなかったため、下記の組み合わせで処方したところ、徐々に頻脈の持続時間や頻度が減少し、また夜間覚醒時の頻脈もなくなったことを示して頂きました。
- 「桂枝茯苓丸」(けいし ぶくりょうがん。難治性のものには駆瘀血剤を併用することから)
- 「柴胡加竜骨牡蛎湯」(さいこ か りゅうこつ ぼれいとう。心悸亢進に対して)
- 「補中益気湯」(倦怠感に対して)
まとめでは、山本先生の臨床口訣では難治性疾患、慢性疾患には瘀血が絡んでいると言われていること、日本東洋医学会でご高名な栗山一道先生のお言葉「病気が治ると元気になる。元気になると病気が治る。食事が入らないまま元気になることはないので、「食欲不振」を病気と捉え治療していきましょう。」を教えて頂きました。
■ 【実施模様1】POTS・起立不耐症の症状や診断、治療やセルフケアについて(佐藤恭子先生) |
■ 【実施模様2】自律神経疾患における漢方治療(山本巌漢方)(上松章子先生) |
■ 【実施模様3】とらえにくい症状に対する診療・支援の課題と取り組み(野村篤史先生) |
■ 【実施模様4】はじめての障害年金(早川靖雄先生) |
■ 【実施模様5】症状や困り事を伝えるコミュニケーションの整備(POTS and Dysautonomia Japan |