以下は米国で「POTSにおける抗ムスカリン性アセチルコリン受容体抗体の研究」の本調査の参加者をつのるにあたり、自己抗体とPOTSについての説明スライド、Muscarinic Antibodies POTS Research.(動画) Dr. Steven Vernino. Dysautonomia International. external-link-symbol を日本語訳したものです。


自己抗体とPOTS

国際自律神経障害の会(Dysautonomia International)
2016 会議 リサーチプロジェクト

UTサウスウェスタンメディカルセンター
スティーブン・ヴェルニーノ医学博士


体位性頻脈症候群(POTS)とは

・自律神経障害の中で最も多くみられる病気
・患者数は米国内だけで50万人以上
・患者の”生活の質”が著しく低下
・起立不耐および生活に困難をきたす以下の症状:
・消化管蠕動不全、吐き気
・疲労、集中力の低下(’ブレインフォグ’)
・発汗・体温調節機能の変化
・病因はまだ特定されていない


POTSの病態・原因

POTSのサブタイプ(様々な病態がある)
・神経障害性タイプ、 高アドレナリンタイプ
・身体機能低下、 慢性血液量減少、エーラス・ダンロス症候群
・片頭痛、脳震盪との関連性
・ウイルス性感染後の発現

自己免疫系の要因が考えられる
・感染やケガの後に亜急性発症するケースがある
・自己免疫疾患は特に若い女性に多い
・他の自己免疫疾患(特にシェーグレン症候群)を併発
・研究では免疫系の活性化が見られた
・自己抗体


神経内科における細胞膜/細胞受容体の抗体(2016年)

疾患 関連する抗体
重症筋無力症 α1 AChR, MUSK
ランバート-イートン症候群 VGCC
自己免疫性自律神経節障害 α3 AChR
ニューロミオトニア(アイザックス症候群、マルファン症候群) VGKC(Caspr2)
脳炎 LGI1,NMDA-R, GlyR, AMPA-R, GABA-R, α7 AChR, GluR3
視神経脊髄炎 aquaporin-4
小脳変性症 VGCC, mGluR1

神経学的な自己抗体

感度/特異性
・多くの自己抗体は非特異的である(例:抗核抗体)
・抗体検査の最適化は難しい(しかしとても重要である)

臨床での解釈
・抗体検査は診断的価値を与えられるか?
・抗体は病因に関する情報を与えられるか?
・抗体は病気の原因なのか?


抗ガングリオニックアセチルコリン受容体抗体とPOTS

・50%程度は亜急性の広汎性自律神経障害(AAG)である。
・抗ガングリオニックアセチルコリン受容体抗体が高力価(>1.0 nmol/L)
・低力価(<0.1)
・特異性に乏しい(54%は神経学的障害ではない)
・偽陽性は0.5%以下であるが(健常対照群)、患者の3%程度は自律神経障害ではない。

・メイヨークリニックの研究(2007-2009)によると、多くて20% が陽性であると示唆されている。
・正確には5%程度の出現率である;低レベルであり、偽陽性の割合と統計学的な違いはない。
・POTSとAAGは臨床的にはかなり異なる。


他の自律神経に関する自己抗体について

抗β1アドレナリン受容体抗体
・30年前にシャーガス病や心筋症で確認された。
・β1アドレナリン受容体抗体は14人のPOTS患者で検出された。
・この自己抗体は心拍数を上げる(不適切洞頻脈で見られるように)
・まだ研究途上である。

抗α1アドレナリン受容体抗体
・14人のPOTS患者で検出された(生物学的検査)
・部分的にノルアドレナリンの働きを阻害する
・まだ研究途上である(2014年のDysautonomia Internationalの自己抗体研究で実施)

抗”脂質ラフト”抗体
・同定とその意義についてわかっていない。


なぜムスカリン性アセチルコリン受容体を調べるのか


ムスカリン性アセチルコリン受容体抗体(抗mAChR抗体)について

・抗M3抗体 :シェーグレン症候群・強皮症
・胃腸、唾液腺機能に作用する
・抗M2抗体:心拍異常
・抗M1抗体:CFS
・認知機能や自律神経節において中心的役割を果たしている

・抗M3抗体の作用はPOTSやシェーグレン症候群、重複する症状との関連性が見られるため、特に興味深い。
・シェーグレン症候群の患者の多くは自律神経障害も持っている。


予備調査

対象:POTS患者16名と20名の対照患者
手法:免疫蛍光抗体法(最も特異的な抗体検出方法ではない)
結果:
・ほとんどのPOTS患者が1種類以上のmAChR 抗体を保有
・抗M1抗体とブレインフォグ症状との相関
・抗M3抗体を有する患者に異常発汗反応
・抗M2抗体はほとんど検知されず


本調査:抗ムスカリン性アセチルコリン受容体抗体に関する研究調査

目標:
・抗mAChR抗体に関する信頼できる客観的評価法を開発する
・今回調査する特定の抗体を、POTS患者が保有しているかどうかを確認する
・大規模なPOTS患者のコホートを調査することで、対象となる抗体と患者の病態タイプとの関係を調べる


POTSにおける抗ムスカリン性アセチルコリン受容体抗体の研究(1)にもどる